気になる百合小説その16 ”最愛の子ども”の詳細を見る

”最愛の子ども”ってどんな本?

”最愛の子ども”ってどんな本?

書籍詳細
パパ、ママ、王子……3人の女子高生が擬似ファミリーを築く傑作小説

幸福な「ファミリー」に擬せられた三人の女子高生をめぐるこの物語は、「わたしたち」という珍しい主語で語られる。

「わたしたち」というのは、主たる登場人物三人を目撃する級友の集合体で、特定のだれかは最後まで顔を出さない。作中の言葉を借りれば、「小さな世界に閉じ込められて粘つく培養液で絡め合わされたまだ何ものでもない生きものの集合体を語るために」、この主語が選ばれたという。すみずみにまで目を光らせ、「わたしたち」は物語をいきいきと語り続ける。

「わたしたち」の声は、時にギリシャ悲劇のコロスを、あるいは王朝文学の女房たちを連想させたりもするが、日夏(ひなつ)や真汐(ましお)の視点に立つ場合は、これから妄想する、捏造をする、とあらかじめ言いおいてから、するりと内部に入り込んで語り続ける。あやふやさや、話を面白く膨らませることもある、一種メタフィクショナルな語り手であるのが面白い。

権威に衝突しがちで意固地なところのある真汐と、人気者で際立って何でもできるが、どこか醒めている日夏。中等部時代に深く結びついた二人に高等部から入学してきた極端に受動的な空穂(うつほ)が加わって、親密な三人の関係は「ファミリー」と呼ばれ、大切なロマンスとして共有され語られることになる。

当然のことながら彼女たちには家族がいる。自分たちで選びとった「ファミリー」に比べると、日夏も、真汐も、空穂も、現実の家族に不全感を抱えている。そして三人の関係性も不動のものではない。なりたちから変容、途絶までを「わたしたち」は見守る。関係に力ずくでヒビを入れるのは現実の家族で、結果として日夏は王国を出る選択を迫られる。

著者は、初期の代表作『ナチュラル・ウーマン』で、女性同士の性愛を描いた。形のまだ定まらない官能を描く『最愛の子ども』を読んで、『ナチュラル・ウーマン』の女性たちの少女時代を読んだような錯覚に一瞬、とらわれたが、二〇一一年までの数年と時代が設定された『最愛の子ども』の日夏や真汐は、彼女らの子どもの世代にあたるのだ。

作中で「わたしたち」の一人である美織の母親が、「あの人」について言及する場面が印象に残る。詳しくは語られない「あの人」は、『ナチュラル・ウーマン』の花世や容子であるかもしれない。『最愛の子ども』は、『ナチュラル・ウーマン』の作者から「道なき道を歩め」と子ども世代に手渡される、慈しみを込めた青春小説である。

その他情報

  • 著者:松浦 理英子

”最愛の子ども”の口コミ・レビュー

「登場人物の誰ともつかない、共同幻想みたいな「わたしたち」を視点に、百合と疑似家族が合わさったような関係が濃密に描かれます。
「犬身」とはうってかわって、デビュー当時に戻ったかのような、サービスたっぷりなロマンスぶり。
ロマンス(少女小説)としての甘さと、超絶技巧の筆のさえが同居した珠玉作でした。」

「所々奇妙なおかしさを醸し出すし、筋立ては序章以外の各章に必ず含まれる”ロマンス”という言葉どおりの物で、そういう読みももちろん可能だ。大いに堪能した、と言える。」

「私自身は、少女であったことも、またどうやら性的マイノリティでもなく、ここまで世間と狎れあって生きのびてきた者だが、この発言には心が波立つのを感じないわけにはいかなかった。もちろん、それは、「最愛の子ども」という作品から強く感得したものに通じている。」

「初めての作家の初めての作品です。女子高生が友達と擬似的なファミリーという立ち位置を築きながら、高校生活を送る日常を描いたもの。もう25年くらい前に高校生だったから、その当時とは全く世界観が違いますが、まぁまぁ興味深く読みました。」

まとめ ”最愛の子ども”ってどうなの?

まとめ ”最愛の子ども”ってどうなの?

”泉鏡花文学賞”を受賞した本作品。
他作品では、三島由紀夫賞候補・芥川賞候補などなどその評価はかなりのもの。
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